平松洋子さんとの新刊記念対談イベント直前! 最後の砦【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」《番外編》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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平松洋子さんとの新刊記念対談イベント直前! 最後の砦【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」《番外編》

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」《番外編》

 

 店主はそこそこのおじいちゃんで、遅めの時間に行くとだいたいテレビを見ているか寝ている。4品ぐらい注文すると、一旦厨房に引っ込んだあと、「お刺身盛り合わせとさつま揚げと……何でしたっけ?」と聞き直しに来る。たくさんある日本酒のメニューから「じゃあ、これで」と注文すると、しばらく冷蔵庫を探して「今日は切らしてますねー」ということもしばしば。たぶんメニューの半分くらいはハッタリだと思う。

 料理は、繊細さはないものの普通においしい。ただし、出てくるのは遅い。厨房では若いスタッフが立ち働いているが、あんまり遅いので店主に「だし巻きって通ってます?」と確認したら、「もうできます」と言われてしばらくして出てきたけど、絶対通すの忘れてただろ。いつだったか、刺身のマグロが半分凍ってたこともあった。

 こう書くと、今度は一転、ダメな店に思われるかもしれない。実際、ダメなところはある。でも、この店はそれでいい。年末年始以外無休で朝4時ぐらいまでやってて、いつでも入れるというのが貴重。私にとって、最後の砦なのである。

 かつて同じ編集部で仕事をしていた編集者で家が近所の人がいて、飲み会のあとタクシーに同乗して帰ってきて、「もう一軒行きましょう」と入るのもこの店だった。深夜にもかかわらず、いつもそれなりに客がいた。彼ら彼女らにとっても、そこが最後の砦なのだ。

 仲井戸麗市の「ランタン」という曲は、こんなフレーズで始まる。

 

  ヘンドリックスならWooまだやってる

  あそこならWooいつでも大丈夫

  ちょっと寄ってみないか

  ヘンドリックスなら 夜通しやってるから

 

 これもまた、最後の砦の話だろう。ヘンドリックスというのは、おそらくバー的な店と思われる。バーなら深夜営業の店も珍しくない。最近めっきり行かなくなってしまったが、私にも「あそこなら大丈夫」というバーはあった。

  そういう店は、ただ明け方までやってるというだけでなく、居心地も重要なポイントだ。マスターの人柄はもちろん、照明や調度、BGMも大事。混雑しててもガラガラすぎてもよろしくない。自分のほかに2人(2組)ぐらい客がいるのが理想である。乾き物以外に、それなりのおつまみ、何ならパスタとかあるとなおヨシ。

 そんな最後の砦が何軒かあると心強い。いや、何軒もあったら「最後」じゃないだろう、と自分で書いてて思ったが、いざというときの備えは何重にもしておいたほうがいいのは確か。みなさんの最後の砦は、どんな店ですか?

 

文:新保信長

 

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✴︎本屋B&Bで9月17日(火)19時〜新刊記念イベント開催✴︎

新保信長さん × 平松洋子さん

「大阪どまんなかの食堂で生まれ、外食だけで育った男の話」 

詳細とお申し込みは以下Peatixから→https://bb240917a.peatix.com/

 

【出演者プロフィール】


新保信長(しんぼ・のぶなが)
1964年大阪生まれ。実家は堂島の食堂。東京大学文学部心理学科卒。編集者&ライター。編プロ、出版社勤務を経て1991年よりフリー。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。
著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡 ガンダム、YMO、村上春樹』『漫画家の自画像』など。新刊に『メガネとデブキャラの漫画史』がある。

平松洋子(ひらまつ・ようこ)
1958年生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。『食べる私』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』『酔いどれ卵とワイン』など著書多数。(写真:広瀬貴子)

子供の頃、親に連れていかれたデパートの大食堂。夜遅く仕事帰りに一人で入る牛丼屋。ここぞというデートや記念日に予約して行ったレストラン。気の置けない仲間と行く居酒屋……。そんな誰もが心当たりあるような懐かしくも愛しき「外食の時空間」を鮮やかに切り取ったエッセイ『食堂生まれ、外食育ち』(ベストセラーズ)が7月に発売されました。

その刊行を記念して、トークイベントを開催します。

出演は、同書の著者である編集者・ライターの新保信長さんとエッセイストの平松洋子さん。大阪の食堂生まれで外食だけで育った新保さん、外食も料理も大好きで食関連の著書多数の平松さんが、外食の醍醐味について語り合います。

イベント帰りにどこかのお店に寄りたくなること必至! 幸い場所は下北沢、お店には事欠きません。皆様のご参加をお待ちしております

※本イベントはご来店またはリアルタイム配信と見逃し視聴(1ヶ月)でご参加いただけるイベントです。詳細につきましてはページ下部をご確認ください。
※本イベントは、お二人によるトーク+質疑応答(90分)を予定しております。イベント終了後には、来店参加者限定で、サイン会を開催いたします。お二人の関連書籍をご購入またはご持参ください。

 

詳細とお申し込みは以下Peatixから→https://bb240917a.peatix.com/

 

✴︎KKベストセラーズの7月新刊✴︎

新保信長 著『食堂生まれ、外食育ち

作家・平松洋子さん推薦!!

「気配をスッと消し、食の現場をニヤリと斬る。

選ばしし外食者の至芸がすごい。」

外食歴50年超の著者が綴る異色の外食エッセイ!
一口に「外食」と言っても、いろんなシチュエーションがある。子供の頃に親に連れていかれたデパートの大食堂。夜遅く仕事帰りに一人で入る牛丼屋。ここぞというデートや記念日に予約して行ったレストラン。気の置けない仲間と行く居酒屋。たまの贅沢のカウンターの寿司屋。出先でたまたま入った定食屋。近所のなじみの中華屋や焼き鳥屋……。
誰もが心当たりあるような懐かしくも愛しき「外食の時空間」への旅が始まる!

カバー&本文イラスト描いたイラストレーターおくやまゆかさん。

イラストが最高に愉快!(全50点収録)

目次

序 「今日のごはん何?」と聞いたことがない

第1章 ノスタルジア食堂

1品目|外国人と鴨南蛮と中華そば
2品目|ランチタイム地獄変
3品目|「天丼」と「うどん天」と「シマ」
4品目|出前とデリバリー今昔物語
5品目|おでん定食というギャンブル
6品目|ハンバーグ記念日
7品目|おいしい味噌汁の条件
8品目|最高のおやつ
9品目|校外学舎の悲しき夕食
10品目|わんこスイカ
11品目|ところ変われば品変わる
12品目|「恵方巻」と「丸かぶり」
13品目|ちくわぶとはんぺん
14品目|「肉じゃが=おふくろの味」って誰が決めた?
15品目|スマホがなかった時代
16品目|Gに気をつけろ!

第2章 私が通りすぎた店

17品目|あの素晴らしい寿司屋をもう一度
18品目|気まぐれすぎる女将
19品目|選択肢のない店
20品目|日本一大きいビアガーデン
21品目|カニ・マイ・ラブ
22品目|国会図書館でナポリタンを
23品目|夫婦の肖像
24品目|サハリンの夜
25品目|インドで大炎上
26品目|開幕前の至福の宴
27品目|私がスポーツジムに通う理由
28品目|かわいそうな寿司屋とその弟子
29品目|残業メシ格差
30品目|よそンちの食卓はつらいよ
31品目|大食いと早食い
32品目| BGMも味のうち?

第3章 外食の流儀

33品目|大盛りはうれしくない
34品目|取り皿問題
35品目|デザート嫌い
36品目|お熱いのはお好き?
37品目|器のTPO
38品目|あんまり尽くされても困る
39品目|スパゲティがパスタに変わった日
40品目|何をかけるか問題
41品目|どの席に座るか問題
42品目|酒飲み認定
43品目|11人きた!
44品目|硬と軟
45品目|人はだいたい同じものを注文する
46品目|トングどっち向きに置く?
47品目|箸と愛国
48品目|ステキなタイミング
おわりに 入れなかったあの店の話

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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  • 2024.07.05